2014年2月14日金曜日

ロベルト・シューマン: 「森の情景 op.82」

 
1. 森の入口 2.茂みの中で獲物を待ち伏せる狩人 3.孤独な花 4.気味の悪い場所
5.親しみのある風景 6.宿 7.予言の鳥 8.狩りの歌 9.別れ


シューマンのよく知られているピアノ曲の多くは、20代に書かれたものでしたが、
この《森の情景》は、歌曲や室内楽を多産した時期を経たのち、1848年暮れから翌年にかけて作曲されました。
完成までには約ひと月を要しました。ピアノ作品としては実に10年ぶりの作品。
 
以前のピアノ作品と比べ、文学と音楽との結びつきは深みを増しているようです。
各曲はロマン派詩人たちの描いた「森」をモチーフに作曲されたと言われ、
当初は各曲のモットーとして詩を添える予定であったようです。

ドイツ・ロマン主義者の文学者、とりわけ詩人にとって、
「森」とは、静寂・活気、神秘、憧憬、といった多様な趣を持つものでありました。

しかし出版に際しては、第4曲目の「気味の悪い場所」
にフリードリヒ・ヘッベルの詩が添えられているのみです。
それはシューマンは当時の標題音楽の観念を避け、
音そのものからの色感をより求めていたからであって、
出版までに詩を省くかどうか考えた末、1曲だけ残す結果となりました。
 
構成に注目してみると第5曲目を中心にして、
曲の前後で呼応しあっています。
第1曲目と第9曲目で「入口」と「別れ」。
第2曲目と第8曲目で「狩り」のテーマ。
第3曲目の「花」と第7曲目の「鳥」は自然界の代表的な存在。
第3曲目と第6曲目では「気味の悪い場所」に対して安全な「宿」という風にです。
調性の上でも、まず始まり、真ん中、終わりの曲(「森の入口」、「親しみのある風景」、「別れ」)
でこの曲集の主となる変ロ長調を用いています。
そして第3曲目の「孤独な花」でも変ロ長調を用い、
それと呼応する「予言の鳥」では平行調のト短調が用いられています。
さらに注目すると、2曲の不気味さを表現している曲、「茂みの中で獲物を待ち伏せる狩人」と
「気味の悪い場所」がニ短調で書かれ、それらに呼応する「狩りの歌」と「宿」は変ホ長調で書かれている点です。
これらの内容から、シューマンの代表曲集でもある「子供の情景」と構成上で大きく異ると言えるでしょう。

今回の私達のテーマは「花と自然」。
普段は癒やされるものとして捉えられがちですが、
このシューマンの「森の情景op.82」からは寧ろ美しさだけでは終わらない、
自然の脅威や強さ、不気味さというものが強調されているように思います。
様々なな旋律から、森の声を聴きとっていただけるのではないでしょうか。
 

滝村乃絵子

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