2014年2月15日土曜日

シューマン 「花の曲」、ヤナーチェク 「霧の中で」 

花の曲 シューマン


この作品は、シューマンが大変敬愛していたジャン・パウルという
詩人の文学からのインスピレーションを得て作られ、
花の曲と名づけられたと言われている。


この曲が作られた1839年の、その翌年、
もう兼ねてからかれこれ何年か望み続けて来たが、
父の猛反対で滞っていたクララとの結婚を
晴れて果たすことが出来たシューマンであった。

この為、ついにかなった喜びが、はち切れ、
堰を切ったようかのように、
この1840年には、「ミルテの花」「詩人の恋」「リーダークライス」
「女の愛と生涯」など、主要な歌曲の大半が作られ、後に「歌曲の年」と名付けられる。
この直前の年、二人はついに訴訟を起こすまで、
切羽詰まっていたのだが、愛の高まりは、
それだけに溢れんばかりだったのではないかと想像する。
そして、決してこじつけではなく、これらの一連の歌曲につながるエッセンスを、
感じることが出来る。

ここに言葉は欠けているが、
目を閉じるとはっきり、小さく清楚な野に咲く一輪の、
凛として健気に美しい風情が見えて来るようだ。
そこに大きなドラマはないが、静かにただ、
ひたひたと流れる静かな愛の波動を感じることが出来る。

そう、ことにクララ命♡全開の時代の
シューマンの作品と思って聴いて、共に楽しんで頂けたらと思う。
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霧の中で ヤナーチェク作曲

ヤナーチェクは今まで
室内楽、歌曲作品などでも演奏者として
触れて来たこともなく、全くの
初めましてであり、まずは小さく歩みを縮めながら
お知り合いになるところから作業が始まって行った。
その和音の響きは何か、とても琴線に触れるところがあって
どこかで聴いたことがあるような懐かしさがあるのに
全くの初めての感覚というのか、何かとても不思議な、ざわざわとした手触りがある。
この曲独特の持ち味なのかもしれないが、
何か、境目から向こう側へ、異界へと連れられて行ってしまうような
ふっと、足を踏み外して、違う世界へと移行してしまうような
そういう引力をこの作品に強く感じる。

ヤナチェクはこの年、長女のオルガを亡くし、
(写真を見るとけっこう、大きな娘だったようだ)
プラハでのいくつかのオペラ上演の拒否の憂き目に合い、
精神的に打撃を受けていたという。
その、もやもやの、どこの場所へも行き着くことのない
彼の閉塞感をこの作品が現しているということだ。

その、感覚的な行き場のなさ、
当て所もなく彷徨う感じが、
霧の中で呆然と立ち尽くし、絶望している様そのものであるようだ。

以下に少し、構成的な説明を加える。


第一曲
アンダンテ
不思議な透明感のある旋律が、左手のオスティナート風の伴奏に
支えられ、微妙な色合いの変化を見せながら移ろいゆく。

第二曲
モルト・アダージョ-プレスト-グラーヴェ-アダージョ
二拍子の牧歌的な旋律を主題に始まり、
その主題の動機を展開させて
まるでほんとうに霧の中で迷っているかのような不思議な32分音符の
音型が続く。その旋律は更にプレストで、激しく、荒れ狂い、
また寂しげに虚ろに収束する。

第三曲
アンダンティーノ
ヤナチェクの生まれたモラヴィア地方の民謡は、
彼の作品に多用されたが、
この、民謡風の主題もそうなのだろうか。
これが過去の幸せだった記憶に聴こえてくるのは中間部の
激情のせいかもしれない。

第四曲
プレスト-アンダンテ-アダージョ
切なく激しく、しかし、時に無機質なほどに
厳しい旋律が吹き荒ぶ嵐のように展開して行く。
第三曲のモチーフの残骸のようなものも
見え隠れしている。

梅谷初

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