2020年2月23日日曜日

リスト「エステ荘の噴水」ショパン「舟歌 嬰へ短調 作品60」(解説 滝村乃絵子)


フランツ・リスト(1811-1886)

巡礼の年 第3年より 「エステ荘の噴水」

ピアノ独奏曲集「巡礼の年」は、リストが20代から60代までに断続的に作曲した作品を集めたもので、人生の旅路で経験したもの、思ったものを書きとめた形をとっています。

「巡礼の年第3年」は1867年~1877年にかけて書かれた作品7曲をまとめたものです。
4曲にあたる『エステ荘の噴水』は1877年の作曲で、聖職者の資格を得たリストが一切の演奏活動を断ち、ローマ近郊のティボリに建つ16世紀からの城館「エステ荘」に滞在していた際に書かれ、エステ荘の様々な噴水の水の動態を巧みにピアノで表現した作品です。 僧侶となったリストの晩年の作風は、精神性の深い、宗教的色合いの強いものに変化していきます。この曲の楽譜144小節目には『ヨハネによる福音書』からのイエス・キリストの言葉が引用されています。
「私が与える水はその人の内で泉となり、永遠の命にいたる水が湧きあがるであろう」
                                  (『ヨハネ伝』第4章第14節)

順風満帆な音楽人生を歩んできたリストですが、50歳をこえた頃から多くの不幸に見舞われました。 深い悲しみをたたえた曲集の中で、ただひとつだけ、希望の光を感じさせるこの作品を組み込んでいます。噴水を見ている間だけは、世界のつらさから逃れることができる、そんな救いをリストはこの曲に求めたのかもしれません。


フレデリック・ショパン(1810-1849)

舟歌 嬰ヘ短調 作品60

「舟歌」とは主にヴェネツィアのゴンドラ漕ぎの歌を指します。寄せては返すの8分の6拍子のリズムの上に、
伸びやかで屈託のない旋律が歌われます。ショパンは1845年から翌年にかけてこの曲を書きました。その時期、愛人ジョルジュ・サンドとの関係、持病の肺結核、すべての中で絶望的な状況の中にありながらも、ショパンはこの世のものとは思えない美しさの極みに到達しました。この雄弁な語り口の裏にある繊細な襞に、失われていくものへの憧れ、寂しさ、悲しみ、孤独が織り込まれています。
ショパン晩年の高貴な精神を宿す傑作であると共に、ピアノ演奏における高度な表現能力を要求される難曲です。

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